「1年以上売れないので相談に乗ってください」
この2か月の間に同じご相談を2件いただきました。
どちらも私の出身であるS県S市にある物件に関するご相談でした。
そして、少し事情をお聞きしたところ、どちらも「媒介契約」を締結していませんでした。
というか、「媒介契約?それって何ですか?」というご返答でした。
宅地建物取引業法第34条の2
宅地建物取引業法(以下、宅建業法)では、「売主からも署名・捺印をもらうべし!」とまで露骨な指示を出していませんが、関東エリアを中心に札幌から福岡まで、30年以上不動産仲介業に携わってきた身としては、「当たり前のように媒介契約書を作成し、売主から署名・捺印をいただくべきもの」という強い認識です。
以下、「宅建業法第34条の2」の冒頭部分だけ転載します。
1.宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。
ここでいう 次に掲げる事項 とは、「物件を特定する表示」「価格」「契約の有効期間」「指定流通機構への登録の有無」「報酬に関する事項」などです。
要するに、売主から「私の所有するこの不動産を〇〇万円で売却したいので買主を探してください」という依頼を受けた宅建業者は、少なくとも宅建業者が記名・捺印した媒介契約を売主に交付する義務があります。
※日が経過した後に「売却を依頼した覚えはない」と売主から言われても困るので、一般的には(私の認識としては必須ですが)売主からも記名・捺印をいただき、原本を1部ずつ売主と宅建業者で保有するという認識です。
「媒介契約」を売主に交付しないと「業務停止」もある
宅建業法65条において、宅建業者が上記「第34条の2」に違反した場合、
「国土交通大臣又は都道府県知事(免許権者)は、当該宅地建物取引業者に対し、一年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。」
と定められています。
不動産業者において「業務停止」を喰らうことは間違いなく死活問題です。
しかも本当に売却を依頼されているのであれば、業務停止されてしまう危険を冒してまで、媒介契約を交付しないことなどあり得ないと思うのですが・・
そんな話が同じS市において2件もあることに、本当に驚いています。
うち1件は「専任で任せてください」と言われている?
更に耳を疑ったのは、2件のうち1件は、「売却は私だけに任せてください!」と強く言われているようです。
その業者は、媒介契約を交付しない状態で「専任媒介」の体で売却活動し、それが1年以上経過しているようです。
更に聞くところ、2週間に一度の営業報告もされていない様子・・
その業者からは、「レインズ(指定流通機構)に掲載すると良い価格で売却できなくなるので、情報を非公開とし、水面下で売却活動しなければ失敗します」と言われているようです。
レインズに掲載すると良い価格で売れなくなるかどうかは、その物件の性格によっても賛否両論あるでしょうが、少なくとも1年以上も売れないまま営業報告も杜撰というのは、同業者としては恥ずかしくも悲しくもなります。
最低限の宅建業法すら守れない業者を信じますか?
不動産の売却手法や業界の実態など、色々とご説明を差し上げた終盤に・・
「そうなんですか、でも1年以上お世話になってきた業者さんですし・・」
というメール文章が送られてきたとき、
(あぁ、これはもう私が相談に乗って何かしてあげられるような状況ではないかもしれないな)
そんな思いが込み上げてきました。